フィンランド語の文法書を読み進めていくと、子音階程交替 (しいんかいていこうたい) という恐ろしそうな 呪文 文法に出会う。
基本は「強階程→弱階程」なんだけど、ある条件になると逆の「弱階程→強階程」とか、これもうわかんねぇな
韓国語やウェールズ語よりも子音変化のルールが複雑だと思う(小並感)
目次
前回の記事
結論:カオルちゃんは可愛い!
Johtopäätös : Kaoru on söpö
子音階程交替(しいんかいていこうたい)って何?
そもそも交替(こうたい)って何?
野球で、↓のようなシーンがある
「ピッチャー交代!俺」
ヒットやホームランを打たれまくってトホホ・・・なピッチャーが居たとする。
そんな時は、試合の流れを変えるためにピッチャーを交代させる戦術がある。
そのピッチャーを、言語学に例えると「音」
例えば、ある「音」のせいで、次の「音」が発音しずらい !!!
そんな時は、発音しやすくするために「音」を変えちゃうことがある。
日本語で言うなら、「書いた」は発音しやすいけど「漕いた」は発音しにくいなぁ~
じゃあ「漕いた」は「漕いだ」って発音したろか!
この時の「漕いだ」は「た(ta)」が「だ(da)」へ変化している。
このような音の変化を言語学では交替(こうたい)と呼ぶ
単語が別の単語に変化する時、子音が変わることがある
例えばkauppa (店) という単語がある。
↑の単語を「店に~」の意味にする時は、単語の最後に ssa をくっつける
kauppa+ssa
で単語の形が変化する時、
kauppaのppの部分がpへ変化する。
つまり
kauppa(店)
→kaupa+-ssa
→kaupassa(店に)
こんな風に、単語中にあるppの子音がpへ変化するような現象を 子音階程交替(しいんかいていこうたい)と呼ぶ
要するに「k,p,t」の子音変化
長ったらしい文法用語である子音階程交替(しいんかいていこうたい)は
「kpt 交替」とも呼ばれる。
要するに、単語にk,p,tのどれかの子音が含まれている場合は子音k,p,tが変化するよ!っていう意味。
例えばkatu(通り)の語尾にlla(~に)がくっつくとkadulla(通りに~)に変化する。
katu(通り)の最後の音節は tu
子音「k,p,t」の内「t」が含まれているので、子音階程交替(=kpt 交替)が起こる。
katuの場合は t→d の子音変化パターンになるのでkadu+llaになる。
「子音階程交替」だと恐ろしそうな文法に見えちゃうので、以降は「kpt 交替」と書く事にする。
母音が最後の音節で「kpt 交替」が起こる
単語のどこでも「kpt 交替」が起こる訳じゃない。
母音が最後の音節だけ「kpt 交替」が起こる。
もう一度katu(通り)の単語を挙げる。
母音に注目して、音節で分けるとka・tu
kaは、最後の音節ではないので「kpt 交替」は起こらない!
たとえkaは、子音「k,p,t」の内「k」が含まれているから「kpt 交替」や!
とはならない。
「kpt 交替」が起こるのは、あくまでも(他の語とくっつく前の)単語の最後の音節だけ!
katu(通り)の最後の音節は tu
そこにある「t」だけ「kpt 交替」が起こる。
子音の変化パターンを教えてエロい人
表にまとめました
他にも以下パターンがあるらしいけど、「ニューエクスプレス・フィンランド語」には単語例が無かったので省いた。
uku → uvu
yky → yvy
rke → rje
lke → lje
なぜ「poika」→「poja-n」なの?
先ほどの表の上から4番目にある poika(少年) だけを抜き出した。
「kpt 交替」によっては、子音が消えるケースもある。
上記の場合だと「k → なし」
子音 k が消えた後で、残った文字は「poia」
「i」の前後が母音で挟まれているので・・・
母音「i」が子音「j」へ変化する。
つまり「poia」→「poja」になる。
フィンランド語の場合、母音が3つ以上続くと発音しずらい。
なので、上記の例だと母音→子音に置き換えて、連続する母音数を減らしているのだと思う。
表にある「強階程」とか「弱階程」って何?
もう一度、「kpt 交替」の表を示す。
表の一番上に「強階程→弱階程」って書いてあるね。
表の右側にある単語リストの場合、最後の音節にある子音を「強階程」と見なす。
なので、発音変化が起こる時は「強階程→弱階程」に沿って子音を変える。
なんでわざわざ「強階程」「弱階程」って難しく書くの?
そこがフィンランド語の理不尽な難しいところだよ。
ふっふっふ・・・
「強階程→弱階程」になるのは、ある単語(単数・主格)の最後の音節が
①1つの母音で終わる
②母音「e」以外で終わる
↑の場合だけに限られる。
↓に当てはまる単語だと「強階程→弱階程」にはならない(←そこ重要)
③子音で終わる
④母音「e」で終わる
ちなみに、2つの母音で終わる単語は「kpt 交替」は起こらない
つまり元の単語の発音から、一切変わらない!
「kpt 交替」が起こらないケースは、後の章で説明する。
「強階程→弱階程」にならない場合はどうなるの?
「強階程→弱階程」の逆になる!
つまり「弱階程→強階程」
ワイ「は?(困惑)」
ね?
フィンランド語って理不尽難しいでしょ?
逆になる「弱階程→強階程」の具体例
例として,「強階程→弱階程」が「tt→t」になるケースを挙げる
上側の matto(マット)は、先ほどの表でも出てきたね。
mattoの最後の音節はtto
「①1つの母音で終わる」かつ「②母音は “e” ではない」ので「kpt 交替」は「強階程→弱階程」のパターンになる
「強階程→弱階程」になるのは、単語の最後の音節が以下の場合だったよね?
①1つの母音で終わる
②母音「e」以外で終わる
・・・ここまでOK?
では、 下側の単語 vaate(服)はどうだろうか?
vaate(服)の最後の音節は te
matto(マット)と同様に「①1つの母音で終わる」
だけどvaate(服)は「④母音が “e” で終わる」ので「強階程→弱階程」にはならない!(←そこ重要)
逆の「弱階程→強階程」になる!
③子音で終わる
④母音「e」で終わる ←ココに注目!
「弱階程→強階程」はどういう風に子音が変わるの?
もう一度、同じ表を↓に示す。
vaate(服)は「弱階程→強階程」になる。
なので、「強階程→弱階程」の「t→d」の変化パターンはダメ!
vaate→vaade
にしてはいけない(戒め
「強階程→弱階程」の中に「tt→t」のパターンがあったよね?
そこにある矢印「→」を逆向きにすると「tt←t」
「tt←t」は「強階程←弱階程」
※矢印「→」を逆にしています
「tt←t」は「t→tt」と同じ。
つまり「弱階程→強階程」に相当する。
よって
vaate(服)は vaatte になる。
kpt交替から見て、弱い t を、強い tt に戻すイメージ
vaate(服)の語尾に n(~の) をくっつける場合は
vaatte+n
→vaatten(服の)
になる。
ね?
フィンランド語って理不尽難しいでしょ?(2回目)
k,p,tがあっても、子音が変化しない事がある
げえっ!まだ文法があるのか!
曹操「げえっ関羽」
と言いたくなる位、フィンランド語入門書に書かれている文法が多すぎる・・・
ね?
フィンランド語って(ry
げぇっ関羽が来た】横山光輝『三国志』 ~関羽の意外な一面を特集~
「k、p、t」があっても「kpt 交替」を無視するパターン
最後の音節に子音「k,p,t」のどれかが含まれていても「kpt 交替」が起こらない事がある。
具体的には、以下の3ケース。
①sk,sp,st,ks,ts,tkなど
②母音2つで終わる
③一部の外来語
①の例:子音「tk」
matka(旅行)
↑の最後の音節にあるtkaの子音は「k,p,t」の内「t,k」が含まれる。
だけど tk のスペルになっているので、「kpt 交替」は起こらない。
matka+lla(~の上に)
→matkalla(旅行の途中)
ダメな例:madalla (※kは消える)
t→d や k→なし へ変化させてはいけない!(戒め
②の例:最後の母音が「iö」
keittiö(台所)
↑の最後の音節にある子音は「k,p,t」の内「t」が含まれる。
だけど母音は iö の2つで終わっているので、「kpt 交替」は起こらない。
keittiö+ssä(~の中で)
→keittiössä(台所で~)
ダメな例:keitiössä
tt→tと変化させてはいけない(戒め
③の例:英語のautoが由来の単語
auto(車)
↑の最後の音節にある子音は「k,p,t」の内「t」が含まれる。
だけどauto(車)は「一部の外来語」に相当するので、「kpt 交替」は起こらない。
auto+t(複数形にする)
→autot(複数の車)
ダメな例:audot
t→dと変化させてはいけない(戒め
以上が、フィンランド語における子音変化
先ほどの説明は「名詞」の場合
動詞の場合も「kpt交替」が起こる。
ここまで言われると
どんだけ子音交替のルールがあるんだよ!!!
と怒りたくなる気持ちも分かる。
フィンランド語を学んでいる総統閣下はお怒りのようです
「総統閣下は、フィンランド語の子音階程交替 (=kpt交替)が多すぎることについてお怒りのようです」
みたいな動画が出てきそうなレベルwww
ちなみに、↑の ちょびヒゲ 総統閣下はフィンランドと戦争したことがあるらしい。
他の言語も、子音変化のルールがある!
フィンランド語だけが特別ではない。
他の言語でも子音変化のルールはあるぞ!
私が知る限りでは…
ウェールズ語、韓国語、ロシア語にも子音変化のルールがたくさんある。
アラビア語、ヘブライ語の場合、子音はほとんど変化しない
ウェールズ語の場合
韓国語の場合
ロシア語の場合
видеть(vi d et’・ヴィデーチ)=見る
→я вижу(ya vi zh u・ヤー ヴィジュー)=私は見る
※я(ya・ヤー)=私
あるグループの動詞が一人称・単数の形に変わる時、語末の子音が
д(d)→ж(zh) へ変化する。
なお、語頭以外の子音はそのまま。
子音変化のルールは繰り返し練習すればなんとかなる
色々な言語における、子音変化のルールを説明しようとすると複雑
子音変化をガチで説明するだけで、一冊の本が書ける
だけど実際に単語や文を何度も読んで練習すれば、いつかは慣れる
これは、私の語学歴10年以上の経験から学んだこと。
そもそも、発音しやすくするために子音を変えているの!
フィンランド語の場合だと「kpt交替」のルールに沿って子音を変えれば、発音しやすい (※個人差があります)
フィンランド語に慣れた時に、文法ミスで「kpt交替」を無視して単語を格変化させてしまうと「何か発音しにくいなぁ~」と感じると思う。
その時は「どんな子音に変えたら発音しやすいかな?」と自分で考える
自分で考えた上で「kpt交替」の文法ルールを復習する。
その通りに子音を変えて発音してみたら
「なーんだ、子音をこう変えれば発音しやすくなるのかー」
って気づくと思う。
(フィンランド語とは別の語派だけど…)
フィンランド語となんとなく似ている韓国語も、そういう経験ありましたねぇ~
という訳で、
フィンランド語の子音階程交替 (kpt交替)は、単語や文を何度も読めばそのうち慣れる!
だから文法を理解できなくても落ち込まなくていい!
フィンランド語は韓国語とは違って、子音が変わった箇所をハッキリ書いてくれる優しい(?)言語なので。
とりあえずフィンランド語の語学書を開いて、格変化の所の文法解説や例文を読もう(提案
動詞も子音交替があるよ
【参考】他の言語の子音交替