外国語を学ぶと、「ことば」に対する感覚が鋭くなる。
特に仕組みが全く異なる2つの言語を比較すると理解が深まる(気がする。)
今回は「主語(~が)」「動詞(~する)」「目的語(~を)」の関係を中国語とアラビア語の2言語で説明する。
目次
そもそも中国語とかアラビア語って何?
以下を読んで、どうぞ。
中文
(Zhōngwén・チョンウェン)
اللغة العربية
(アッルガタトゥ ルアラビーヤ)
なぜ中国語とアラビア語を選んだの?
多言語学習者は似た言語だけ学びたがる傾向が強い
多言語を勉強する人は世の中に腐るほどいる。
だけど、勉強する言語のパターンはある程度決まっている。
典型的なパターンを以下に示す。
・中国語+韓国語
・ドイツ語+フランス語+スペイン語+イタリア語
・ロシア語+チェコ語
・アラビア語+ペルシア語+ウルドゥー語
・ラテン語+古典ギリシャ語
・・・とまぁ、多言語を勉強している人は同じ言語グループとか,お隣の国の言語を学びたがる傾向が強い。
だけど自分がハマっている言語とは全く異なる、遠い言語も勉強する人は少ないように思う。
中国語とアラビア語の両方ができる日本人はごくまれ
中国語と韓国語が同時にできる日本人はネットで調べればたくさん居る。
だけど、中国語とアラビア語が同時にできる日本人はネットや本とかで聞いたことが無い。
中国語講座とか、アラビア語講座はあるけど・・・
中国語とアラビア語を比較したサイトは無い!
じゃあ、中国語とアラビア語が同時にできる私が作っちゃえ!
と言うわけで中国語とアラビア語の2言語を採用した。
このサイトは日本初の中国語+アラビア語講座なのかもしれない。
そういう話題は語学マニアや言語学者には喜ばれる。
(一般人には歓迎されないが)
「I love you」の中国語・アラビア語訳
中国語・アラビア語を同時に並べてみた。
改めて見ると、迫力があるなぁ~(小並感
赤字は言語を学ぶ外国人向けのフリガナみたいなモノ。
ネイティブ向けの文章では赤字が無いと思ってくれ。
中国語・アラビア語を分析してみる
アナタはSVOを知っていますか?
中学生や高校生の時に英語の授業でやらなかった?
S=主語(~が)
V=動詞(~する)
O=目的語(~を)
英語の場合,文を
主語→動詞→目的語
の順番に並べる決まりがある。
そういうルールの略称が「SVO」です。
中国語
我爱你
Wǒ ài nǐ
中国語の知識ゼロの日本人でも、これくらいの中国語ならなんて書いてあるか理解できるだろう。
英語風に考えると「我爱你」はSVOになっている。
「我(wǒ)」の単語そのものは「わたし」を意味する。
それが文の一番最初に来ると「わたしが」の意味に変わる。
(主格[~が]になる)
また、「你(nǐ)」自体は「あなた」を意味する。
それが動詞の後に来ると「あなたの」の意味へと変わる。
(対格[~を]になる)
単語自体は変化しない。
単語の並べ方で、意味を付け加えていますね~
アラビア語
أُحِبُّكَ
ウヒッブカ
「I love you」のアラビア語は1語だけのように見える。
だけど、実は1語だけで「I love you」の意味になります!
上記のアラビア語がただの線にしか見えない兄貴は以下を参考にして、どうぞ。
上記で示したアラビア語はVO(動詞+目的語)になっている。
S(=主語)が省略されています。
Sも入れてSVOでアラビア語を書くと以下のようになる。
أَنَا أُحِبُّكَ
アナー ウヒッブカ
アラビア語の「アナー」が「わたし」に相当する。
なぜ「アナー」は省略できるのか?
その理由はV(=動詞)にあります。
アラビア語の動詞は単語そのモノの変化で「私は~する」の意味を持たせることができるぞ!
また、「あなた(男)を」が動詞の最後にくっついています。
中国語とアラビア語におけるSVOの比較検証
「比較」は正確には「対照」
本記事のタイトルでは「中国語とアラビア語を比較する」と書いている。
だけど、言語学的に言うと「比較」ではなく「対照」
2つの言語を「比較」できるのは、同じ言語グループに限られる。
例えば、
・英語+ドイツ語
・フランス語+スペイン語
・中国語+ベトナム語
・ロシア語+チェコ語
・アラビア語+ヘブライ語
本記事でとりあげた中国語とアラビア語は別の言語グループ。
よって「比較」できない。
なので中国語とアラビア語は「対照」の考え方で比べることになる。
学校の英語の授業とかで英語と日本語を比べていたよね?
そういう考え方を言語学上では「対照」と言う
だけど・・・
「中国語とアラビア語を対照してみた」
と書くと、一般人には何のことかわからない。
なんだか難しそうな研究でもやってるの?と思われてしまう。
なので、本記事ではあえて「対照」ではなく「比較」とか「比べる」という言葉を使った。(分かりやすさを優先)
S(主語)の違い
我爱你
أُحِبُّكَ
中国語の場合、単語を文頭に置けば自動で主語(~が)になる。
このルールは絶対に守らないといけない。
もし単語を置く順番を変えると、主語も変わってしまう。
一方、アラビア語の場合、語順は自由。
動詞を見れば主語が明らかなら、主語は省略される。
(主語を強調したい時だけ、主語を書く)
また主語は文頭に置かなくてもいい。
動詞の後で主語を置いてもOK
アラビア語はSVOやVSOの文がある。
主語を文の最後に置くVOSも文法上は間違いではないが、そのような文は見たことが無い。
主語の位置自体で考えると・・・
中国語は制限がキツイ、アラビア語はやや緩やか
と言った感じ。
V(動詞)の違い
我爱你
أُحِبُّكَ
中国語は主語の後ろに動詞を置かないといけない。
動詞の位置がちょっとでもズレると変な文になってしまう。
一方、アラビア語の動詞の位置はやや自由。
中国語みたいに厳しく考えなくていい。
その代わりに動詞の形がコロコロ変わる。(=活用する)
アラビア語の動詞の変化はフランス語やドイツ語と同じ位でしょうか。
「愛する」のアラビア語動詞における直説法・現在形の活用を以下に示す。
アラビア語を知らない兄貴は
と思うかもしれない。
だけど、ちゃーんとしたアラビア語ですぞwwwwwww
それに対して中国語の動詞は絶対に形が変わらない。
どんな場合であろうが「爱(ài)」になる。
その代わりに動詞と別の単語の組み合わせがたくさんある。
そのルールはアラビア語の動詞活用のように決まっていない。
動詞によって組み合わせられる単語が決まっている。
中国語を勉強し始めた人にありがちなのが
「動詞は常に一定。だから中国語は簡単です!」
という考え方。
以下の記事では「中国語は簡単な言語だ!」と述べている。
「I love you」の日本語英語中国語を比較分析して中国語が最も簡単なことを証明してみた。
中国語を深く勉強した私から見ると
「あー、この人は中国語を深く勉強してないな~」
と一発で分かる。(それが悪いわけではないが・・・)
中国語は動詞が変化しない代わりに、色々な単語の組み合わせを覚える必要がある。
ルールも正確に決まっていない。
(一定のパターンはあるが・・・)
だから、動詞1つ1つに対して組み合わせられる単語を覚えるしかない。
そういう意味では中国語の動詞も難しいですヨ
O(目的語)の違い
我爱你
أُحِبُّكَ
中国語は動詞の後に単語を置けば目的語(~を)の意味を持たせることができる。
たま~に把(bǎ)や将(jiāng)を使うことで、見かけ上はSOVの文を作ることができる。
これを「[把]構文」と呼ぶ。
中国語の教科書でよく紹介される例文を以下に示す。
请把门关上
Qǐng bǎmén guānshang
ドアを閉めてください。
「门(mén)」自体は「ドア」の意味になる。
その前に「把(bǎ)」を置くて「把门(bǎmén)」で「ドアを」の意味へ変えることができる。
(対格[~を]になる)
そして「把(bǎ)」は動詞「关上(guānshang)=閉める」の前に置かないといけない。
なので見かけ上はSOVの文になっている。
(正確にはSVの文です)
これに対してアラビア語の目的語の場合、単語の形自体を変える。(格変化する)
とは言っても、語尾が「ア」か「アン」になるだけなのでカンタン。
目的語を置く位置は自由なのだが、S(=主語)やV(=動詞)の後に置くことが多い。
更に、目的語が人称代名詞(わたしを、あなたを・・・)の場合、動詞の後にペッタリとくっつけないといけない。
ヨーロッパ言語では、動詞の後に目的語を「置く」
それに対してアラビア語は動詞の後に目的語を「くっつけて1語にする」
また、アラビア語には中国語の「[把]構文」に相当する文法が無い。
SOVは間違いではないが、そんな文は見たことが無いですねェ~
アラビア語は、とにかく動詞を先に言ってしまいたい言語のように思える。
中国語とアラビア語の対照 まとめ
中国語とアラビア語に分けて整理した。
S(主語)
中国語=文の最初に置く、形は変わらない。
アラビア語=場所は自由。主語が明らかであれば省略できる。
V(動詞)
中国語=主語の次に置く。形は変わらない。
アラビア語=場所は自由。その代わりに形がコロコロ変わる
O(目的語)
中国語=動詞の後に置く。形は変わらない。
アラビア語=場所は自由。その代わりに対格(~を)の形に変える
総評
中国語は単語の形を変えない分、語順に厳しい。
アラビア語は単語の形を変える分、語順は緩やか。(それでも一定のルールはある)
一般人にありがちなのが
単語の形を変えない言語 = 簡単な言語
という考え方。
中国語がいい例だね。
だけど、実際にその言語を「深く」学べば学ぶほど、中国語の難しさが分かってくる。
一方、アラビア語は動詞の活用がとにかく多くて難しそうに見える。
だけど、活用をいったん頭の中に入れておけば、あとはそのルールに従って書いたり読んだりするだけ。
学べば学ぶほど、アラビア語が簡単な言語だと気づいてくる。
そういう「分かった!」「気づいた!」が語学マニアにとっては至福の時。
ここまで読んでくれた兄貴!
「中国語は簡単!アラビア語は難しい。」
「だから中国語を勉強するぞ。」
って決めつけないでね!
語学マニアおじさんとの約束だぞ!